翻訳家としての税理士

税理士が果たすべき役目のひとつに、難解な税法をいかにわかりやすく伝えるかというのがあると思っています。

税法は一般の方に読ませるものではない

税法の条文は、税理士が読む場合でも、税法特有の言い回しや構成などに注意しないと読み違えてしまうような、複雑怪奇な作りでできています。

それを一般の方に読ませるわけにはいきませんし、そもそも、一般の方に読んでもらうようには書かれていないものです。

国税庁のタックスアンサーも、一般向けに少々かみ砕いた文章になっているのかもしれませんが、それでもまだ税法特有の用語も並んでいますし、文章もあちこち飛びますし、わかりやすいとは言えません。

毎年の税制改正大綱もそうです。

約100ページもあるガチガチの文章をそのまま読んでもらうわけにはいきません。

とは言っても、それらの中には知らないと損をしてしまうような大事な情報が載っているので、一般の方にも正しく理解して頂く必要があります。

じゃあ一般の方に理解してもらうにはどうしたらいい?となりますが、ここで税理士が役目を果たすわけです。

つまり、難解な税法をわかりやすい言葉や形に翻訳して伝えるという役目です。

税法と一般の方の間をつなぐ橋渡し的な役目と言ってもいいかもしれません。

知らないと損をするような大事な情報を、わかりやすく的確に伝える。

このように書くと、簡単なことのように感じますが、税理士は税法の世界にどっぷりと浸かった脳みそになってしまっているので、意識していないと変な癖が出てしまいます。

難解な内容を誤解なく伝えるというのは、訓練しておかないとなかなか難しいものなのです。

伝える力を磨き続ける

時には、難しい内容をお伝えしないといけない場面もあると思います。

そういう時に税理士の立場からすると、少々の説明で理解して頂けた方が楽ではあります。

しかし、毎回すぐに納得していただけるという事はないはずです。

そんな時に、例えば、条文やタックスアンサー等を引用して、マーカーを引いて「ここにこう書いてあります」では、ちょっとなぁという感じです。

正直なところ税理士自身の保身の意味合いが強いように感じてしまい、お客様のためとはあまり思えません。

「書いてある」引用を示せば、確かにそこには内容が漏れなく書かれているので、税理士側からすると「網羅して説明しました」という事を担保しておきたいという面もあると思うのですが。

でも、仮にこれでお客様が納得されたとしても、説明責任を果たしたと言えるのかどうか。

リスク回避のために、伝えるというところからちょっと逃げているように思えてしまいます。

説明する努力をやめてしまうのは、税理士としての役目を放棄しているのと一緒ではないかと。

通訳で例えるなら、原文を訳さないで該当部分に線だけ引いて「ここです」って言われても、何のこっちゃわからないですよね。

そんな通訳いませんし、それではお客様は置いてけぼりで困ってしまいます。

ちょっと言いすぎましたが、

税法を頭の中で理解して、整理して、わかりやすい言葉に翻訳して伝える。

場面やお客様ひとりひとりの目線に合わせて、ひとつひとつ言葉を選んでいく。

終わりのないテーマであり、税の翻訳家である税理士として磨き続けていかなければいけない力だと思っています。